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新時代へ進化をとげるヒト幹細胞化粧品

再生医療を応用した化粧品

失われた体の機能を回復させる再生医療。その先頭で期待を集めているのがノーベル賞の山中伸弥教授が率いるiPS細胞です。同様に、再生医療の技術を化粧品に応用する動きが広がっています。幹細胞培養液を原料にして、肌の細胞を修復・再生する次世代の化粧品の開発が進んでいます。肌細胞の機能を活性化して、肌の修復や老化を防ぎ、アンチエイジング効果を飛躍的に高めると期待されています。

幹細胞培養液の活用

人間には60兆個の細胞があり、たえず分化を繰り返し、毎日1兆個ずつ新しい細胞に生まれ変わっているといわれています。細胞の種類は200以上もあり、その中には特定の役割に固定されず、必要に応じてどんな細胞にも変化する変幻自在の細胞があります。それが幹細胞です。その幹細胞の培養液には、500種類以上もの様々なタンパク質が分泌されます。そのタンパク質を再生美容や化粧品に活用できるのです。もともと人の細胞から分泌されるタンパク質なので、非常に肌なじみがよく、副作用もないことが知られています。ただ非常にデリケートな性質のため、利用には高度なノウハウや制約が必要になります。
iPS細胞でノーベル医学・生理学賞の山中伸弥教授
iPS細胞でノーベル医学・生理学賞の山中伸弥教授

 

培養液の含まれる生理活性物質

幹細胞を培養して増やし、体に戻すと病気やケガで失われた臓器や組織を回復することができます。その培養液には、幹細胞そのものは含まれませんが、酸素の量や温度、振動などの刺激を与えることで、さまざまなタンパク質や成長因子、サイトカインなどの生理活性物質を効率よく分泌させることができます。この培養液に着目した研究が盛んになっているのです。

表皮細胞の組織を再生可能に

肌は加齢や紫外線、大気汚染などで老化がすすみターンオーバーが乱れると、ハリ、弾力、うるおいを失い、しわやたるみを生じ、メラニン色素の作用で、シミやくすみができます。これに対して従来の化粧品は、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸などをスキンケアで外から補いますが、本質的な解決にはなっていませんでした。ところがヒト幹細胞化粧品なら、皮ふからヒト幹細胞培養液を浸透させて、肌内部の細胞を活性化し、表皮細胞の組織の再生を可能にします。加齢で元気がなくなった肌を、艶やかに若返らせることができるのです。

ドナーの選定と安全管理

ヒト幹細胞培養液の基準が厚生労働省で定められ、化粧品原料として使用できるようになり、ヒト幹細胞化粧品の前途が大きくひらけました。ただ誰のものかわからない幹細胞はどうなのかという意見もあります。幹細胞を採取するドナーの選定は、臓器移植にも匹敵する厳重なものとなっています。まず健康な20~30代の若い女性から採取されることになっています。感染症や病気、アレルギー、遺伝性などの問題がないことが検査で確認されると、感染症の潜伏期間である6カ月間は凍結保存されます。6ヵ月が経過して改めて検査を行い、安全であることが確認できると、解凍して培養が開始されます。

レセプターとリガンド

幹細胞培養液はとても肌なじみがよく、副作用もないとされています。ただ幹細胞にはいくつも種類があり、どんな種類のものでも効果が発揮できるわけではありません。細胞の代謝は、レセプターというかぎ穴にリガンドという結合物質が結び付くことで親和性が発揮され、効果的に活性が起動します。このレセプターに合うリガンドでなければ、効果は発揮されないからです。この点でヒト幹細胞の培養液には、レセプターとリガンドが一致するカギとなる情報伝達物質サイトカインが豊富に含まれることから、もっとも効果が高いとされます。ヒト幹細胞培養液を使った化粧品が熱い注目を集める所以です。
細胞活性化のメカニズム
細胞活性化のメカニズム

安定性維持のための課題

幹細胞の化粧品原料は安全なものですが、性質がとてもデリケートなため安定性に問題があります。幹細胞培養液に含まれるタンパク質は、熱などの温度変化に弱く、時間経過とともに構造が変化しやすいので、脂質の二重になったカプセルのような構造にリポソーム加工が行われます。この過程でいくつかの合成添加物が不可避的に使用されるため、天然成分に徹してきたオーガニックメーカーにとっては、これをどう乗り越えるか、どこまで許容できるかが課題となりそうです。ただ現存する市販品には、幹細胞培養液をちょこっと配合しただけのものや、さまざまな成分や有害な合成添加物が混ぜあわされたものもあって、必ずしも安心できる商品だけとは限りません。敏感肌などには注意が必要です。化粧品の革命ともいえる理想にかなった、夢のようなヒト幹細胞化粧品が実現する日は遠くないかもしれません。
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